05.「陀羅尼助」は万能薬?

  • 溶かして使える薬 丸薬になった「陀羅尼助丸」では考えられないことですが、本来の「板状薬」は、飲み薬として服用するほかに、溶かして用いるという外用薬としての使い方がありました。ここでは、陀羅尼助の胃腸薬以外の一面をご紹介します。(但し、現在の基準ではこうした使い方は推奨できませんので、あくまでも知識としてお読み下さい。)
  • 明治時代の記録  当麻寺中之坊の先々代貫主・松村實勝師は、明治十年四月、次のような効能をあげて売薬営業免許鑑札願書を内務省に提出しています。写真の版木にもほぼ同じ内容が書かれています。 ・癪つかえ ・腹痛 ・ヤニ目 ・カスミ目 ・腫物 ・毒虫ハレ ・やけど
    ・切キズ ・牛馬ノ病、、、
    最初の二つ以外は外用薬としての効能です。しかも目薬としても効能も書かれているのがオドロキです。
     目薬として用いる際は、暖かなる茶にて溶き、一日2、3度洗ふそうです。試してみる勇気はありません。腫物、ヤケドにも何様に溶かして一日五、六回、付けるそうです。
  • 一石二鳥-アオキの薬効?  陀羅尼助の効能として、これだけ外用薬としての効果が説かれているのは、あまり他では見受けられません。現在でもオウバク成分を用いた目薬などの売られているとおり、オウバクには確かにそういう効能があるわけですが、特に当麻の陀羅尼助に外用薬としての薬効が説かれるのは、おそらくオウバクと共に用いられていた「アオキ」によるところが大きいのではないかと想像されます。
     オウバクの用いない胃腸薬は「陀羅尼助」とは呼べませんが、オウバクと共に用いられる薬草は実は各地によってバラバラです。「当麻の陀羅尼助」には「アオキ」が用いられていました。アオキを用いるととてもツヤのある美しい黒光りする「陀羅尼助」に仕上がるのです。
     しかし、アオキには「火傷、腫れ物、凍傷」に対する薬効が認められているそうです。外用薬による効果はここからも来ていると思われます。つまり、アオキは美しいツヤと共に、外用薬としての効果を加える「当麻の陀羅尼助」の名脇役といえるでしょう。
  • 苦みだけの利用  「陀羅尼の項」でも書きましたように、僧侶の眠気覚ましに陀羅尼助が用いられました。これなどはただ「苦み」だけを利用した使い方です。これと同じ使い方に、「赤ちゃんの乳離れ」があります。この使い方は古い方ならご存じの方がかなりおられます。実際にされたことのある方も多いのに驚かされます。即ち、赤ちゃんがなかなか乳離れをしないときに、お母さんのおっぱいに溶かした陀羅尼助を塗るのです。あまりの苦さに赤ちゃんも吸い付かなくなるというわけです。
     肌は大丈夫なのか?と心配になりますが、表紙にも書きました通り、私は唇が荒れたときに陀羅尼助を口に貼り付けられたことがあるのです。それを考えると、皮膚には悪くなさそうです。

     いずれにしても「陀羅尼助」は不思議な薬ですね。

    ※ 現在お分けしている「陀羅尼助」板状薬はオウバクエキス100%です。
      アオキは用いられておりませんので、外用にはなさらないで下さい。